toshi1979のブログ

介護業界で働いています。音楽とスポーツと食べることが好きです。

Via NewsPicks: なぜ日本の介護は外国人看護師・介護士を活用できていないのか。【前編】

本内容は、ニュース共有サービスであるNewsPicksに10月1日付で掲載された川端隆史さんのオリジナル記事『日本は外国人看護師・介護士に選ばれる国なのか』について、介護事業の経営に携わる一員として、感想および気づきを記したいと思います。

まだ記事を未読の方は、下記リンクからご一読をお願いいたします。

newspicks.com 

はじめに:これは、とても優れたレポートである。

まずはじめに申し上げたいのは、川端さんのこのレポートはとても優れた内容であることです。アジア市場から見たマクロな環境分析、日本の現状と課題、そして今後の見立てにおける危機意識は、いずれも正しい。

従いまして、「まったく川端さんのおっしゃる通りです。介護業界の一員として、お恥ずかしい、スマソ」で全面降伏しても正直良いのですが、せっかくなので外国人労働者の雇用について、我々介護従事者の立場から見ることで、今の業界の課題も併せて考えたいと思います。

ちなみに、私の会社は高齢者介護が中心なので、そちらの側面から記します。医療業界はまた違う課題もあるかもしれませんが、それはどなたかが補足していただけると嬉しいです。

なぜ外国人介護士が増えないのか? それはコストが割高だからだ。

いきなり、結論めいたことから書きます。

なぜ、日本の介護事業者は『現時点において』、外国人介護士を活用できないのか。その最大の理由は、事業者にとって、外国人採用は、日本人を採用するのとコストが変わらない、もしくは高くついてしまうからだと考えています。

このレポートにもある通り、今、外国人が日本の労働ビザによって介護の仕事を行うことができるのは、EPAを締結したインドネシア、フィリピン、ベトナムのみであり、日本語スキルや医療・介護の基本技術などの高い能力を求められるなど、多くの制約があります。

そんな中、日本の事業者が彼らを採用する場合、現地の学校法人や本人、家族との橋渡しを行うコーディネーターの協同組合にお願いをするのが一般的です。

協同組合を通じてお支払いする費用として、ざっくり書くと

・採用費(日本渡航までの学校での授業料<医療、介護、日本語>と生活費の立て替え)

・日本での労働ビザ取得までの事務作業

・本人、家族との面談カウンセリング費用

・マージン

などがあります。

 一方で、入社後、我々事業者は

・給与、賞与

・住宅費用(社員寮、もしくは借り上げ社宅)

・一時帰国費用(年1,2回の飛行機代)

を本人に支給します。その他に、外国人従業員のメンター(相談に乗ったり、休日に一緒に出かけたり・・)を用意するなど、時間や人員を投資しています。

働き手不足ということもあり、介護業界の人材採用費用は年々上がっていることは間違いなのですが、 現状はまだ日本人を採用した方が、安くつくというのが実際のところではないのでしょうか。当然、都市と地方では人件費や生活コスト、採用費は異なるので一概ではありませんが、以前に外国人採用の話を業者間で行った時に、思ったよりもはるかに高くつくという感想が多数見受けられましたが、実態は今もさほど変わっていないでしょう。

外国人介護士の導入を拒む壁の存在

とはいえ、私のいる会社でも現在、少ない人数ではありますが、外国人のスタッフが在籍しています。そこには様々な意図はありますが、間違い無く言えるのは今後を見据えた戦略的な採用であることです。日本国内の今後の少子高齢化の進行による長期的な採用難を見据えて、外国人介護士の将来の採用規制の緩和、移民の増加のほかに、日本の介護サービスの海外進出などを可能性の選択肢に入れながら、外国人スタッフを育てて、小さくですが実験してきました。

また、誤解のないように断っておきますが、日本にやってきて介護を志す外国人は、概ね優秀です。でも、それは当たり前の話で、まだ日本に来たこともないのに、実際にご利用者の介護ができるための介助技術とコミュニケーションを取れるレベルまで日本語を学ぶほどの熱意と努力、そして貪欲さを兼ね揃えた方々なのです。その働きぶりを目の当たりにすると、我々は彼らから見習うべき部分が数多くあることにいつも気づかされます。少なくとも我が社にとっては、外国人のスタッフがいることはとても大きな活性剤になっています。

しかし、実際に採用して育ててみて改めて気づいたのですが、今の日本の介護業界は上記の採用+定着コスト以外でも外国人介護士を導入するための壁が分厚いと実感しています。

私が感じているのは、下記の3つの壁です。

1. 国境、言語、文化の壁

2. 法律、行政、賃金の壁

3. 業務の壁

「1. 国境、言語、文化の壁」は、日本固有であったり、長い歴史の中で積み重なったものであり、急激には変化できない障壁。例えば、移民政策や言語教育など。純粋に労働力確保で見れば移民を受け入れたり、英語が話せた方がビジネス上メリットも大きいことは理解はしているかもしれないが、たとえ政府と言えども簡単に舵をきれないバリアがあるのだと思います。こういった壁は長い時間を掛けて国民のコンセンサスを得ながら、徐々に取り除いていくしかないのかもしれません。

「2. 法律、行政、賃金の壁」は、まさしく日本の介護は、介護保険法の下に成り立っていることによる障壁。例えば、高齢化が進んでいる東アジアで見ると、日本は曲がりなりにも国民皆保険のなか、国民全員に統一ルールのもと介護サービスを提供できていることは実はそれはそれで凄いことなのですが、一方で法律による縛りや規制のもと、他のサービス業と比べて、イノベーションが起こりづらい環境でもあります。

また、多少の地域差はあるが、報酬体系が決められているため、一定以上のサービス品質を保ちきちんとコンプライアンスを守りさえすれば、介護は確実に売上と利益を積み上げられますが、一方で大きくは儲けられないビジネスでもあることも事実です。行政によってサービス単価は定められており、労働集約サービスであるため、売上の上限がある程度見える中で、効率的に運営をしながら経費の適正化を続けないと、利益がひねり出せません。

しかし、今後も高齢人口が増えつづけることで、財源となる国の社会保障費は増大とともに圧迫しており、一人当たりの支給額を維持することは容易ではありません。従って、長期的に見れば介護保険法の適用範囲はより厳格になり、報酬は下がっていく傾向になる可能性が極めて高いと考えられます。

財源をカバーするには、いくつかの策があって、一つは消費税などの税金を上げること、もしくは介護保険加入者を現行の40歳から引き下げることであり、もう一つが被介護者の自己負担割合を現状の1割(高所得者は2割)から上げることでしょう。つまり、国民のさらなる負担をお願いするしかない状況であります。

また、介護従事者の賃金は一般的に高くないと言われています。これは事業者の努力にとってカバーできる部分もあるので、「介護=給与が安い」と称されることは、筆者としては非常に悔しく、業界の経営者の怠慢だと思ってもいるのですが、全産業平均と比べたら業界水準は低い事実に間違いはありません。

業界の全体的な給与水準を上げるのであれば、大局的に見れば上記で挙げた通りに、税金を上げるか、もしくは被介護者の自己負担比率を上げるか、いずれにせよ国民の皆さんに負担を強いる方向性しか現状はありません。よく「介護従事者は尊い仕事なのだから、もっと給与は上がってもいい」とありがたい言葉をいただくことがありますが、今後、介護サービスを支える負担が増えたとしてもおっしゃっていただけるのかは不安でもあります。

介護事業者として、安心と信頼を頂くためにもサービス品質を落とすことは絶対に許されません。そのためにも介護従事者の確保と育成は、今後長期間にわたって追いかけ続ける絶対的な経営課題でなるのでしょう。

魅力的に映らない仕事をどうして長期に渡って外国人がやってくれるのか。そんなサービスに高い品質を担保させることなど到底無理ではないかと思います。だから、外国人を活用する前に日本人介護士の処遇改善を図ることは本来、事業者としての至上命題なのだと思います。しかし、今の現状では自分たちの力だけで改善できる範囲は限られており、とても悩ましいのは事実です。

 

そして、「3. 業務の壁」が今回、私が最も書きたかった件でもあります。そして、これは今回の外国人介護士導入だけではなく、介護業界を取り巻く業務の非効率性にも直結した問題提起でもあるからです。

 

と、ここまで書きましたが、今回は【前編】として、一旦これで筆を置きます。

【後編】では、介護事業者として感じる「3. 業務の壁」、つまり業務の非効率性及び特殊性が外国人介護士の適応を阻害しているか。また、今後厚労省、民間企業、我々介護事業者が自らの手で変えうることができるのは何かについて、今思いつくところを記したいと思います。

乱文恐縮です。お読みいただきありがとうございました。